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神戸地方裁判所 昭和63年(行ウ)18号 判決 1991年4月22日

原告 株式会社 大洋

右代表者代表取締役 尾崎一宇

右訴訟代理人弁護士 有田尚徳

被告 西脇市長 石野重則

右訴訟代理人弁護士 荒木重信

同 藤井義継

主文

被告が昭和六三年四月一日付けで原告に対してなした一般廃棄物処理業及び浄化槽清掃業の各許可処分に付した「県立高校及び雇用促進事業団宿舎に限る」との条件を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、被告に対し、昭和六三年四月一日付けで、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)七条一項に基づき一般廃棄物処理業の、浄化槽法三五条一項に基づき浄化槽清掃業の各許可申請をなし、同日付けの許可を受けたが、被告は、その各許可に「県立高校及び雇用促進事業団宿舎に限る」との条件を付した。

2  しかしながら、原告は、前年の昭和六二年度には、被告から無条件の許可を得ていたのである。昭和六三年度に至って、条件付きとなる理由も根拠もない。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、同2の事実は否認する。

三  被告の主張

1  被告は、昭和六二年四月一日付けで、原告に対し、(1)県立高校のみを対象とする、(2)来年度以降は、原告において西脇市内に事業所又は営業所を設置するとの条件を付して、請求原因1の二法に基づく各許可をした。

2  仮に昭和六二年度の許可に右のような条件が付されていなかったとしても、右許可は単年度限りのものであるから、本件許可に条件を付すことに影響を及ぼさない。

3  被告が昭和六三年度の許可をするに当たって、請求原因1の条件を付したのは、次の理由による。

(一) 原告には昭和六二年度中及びそれ以前の西脇市内の実績がないこと

(二) 原告は西脇市内に連絡所的なものを設置したが、不十分であって、浄化槽設置者への緊急の対応が期待できないこと

(三) 西脇市においては、二業者に一般廃棄物処理業の許可を与えて市全域の廃棄物の収集・運搬を行わせるとともに、市が設置し管理する公共施設の浄化槽を除くその余の市内の浄化槽の清掃・管理(その汚泥の収集・運搬を含む。)についても、この二業者に浄化槽法三五条一項の許可を与えて、これに当たらせてきたが、これによって、市内の浄化槽の維持・管理は適切に行われており、今後の浄化槽の設置数の伸びを勘案しても、新たに業者を増やす必要性はない(すなわち、従前の処理計画を変更する必要がない)こと

(四) 廃棄物処理法七条一項の許可がないかぎり、浄化槽から抜き取った汚泥の収集・運搬ができないので、浄化槽法三五条一項の許可は無意味となること

4  原告の本件許可申請は、将来の公共下水道の完備に際しての補償の要求を目的としているものであって、権利の濫用というべきである。

四  原告の反論

1  被告は、原告に営業の実績がないというが、原告は、昭和六二年度の許可を受けた際、市の職員から、営業を自粛するよに要望されたのである。それでも、原告は、同年度の許可に基づき、スーパー広田・和田山店及び栄光産業・パチンコ店の浄化槽清掃及び廃棄物処理を行った。

2  さらに、浄化槽に緊急の事態というのはないのである。浄化槽の故障については、ブザー等の報知装置があり、五時間以上の余裕をもった設計がなされているところ、原告の事務所から西脇市までは車で四〇分の距離にすぎないのである。

3  被告の主張する処理計画は、西脇市において発生する廃棄物の量と同市の廃棄物の最終処理能力が合致しているか否かに重要な要素がある。そして、同市においては、生し尿の収集・運搬を委託業者にさせ、その生し尿と一般廃棄物の最終処理を市が行い、浄化槽汚泥の収集・運搬は、許可業者が行っている。本件許可申請の内容は、浄化槽汚泥の収集・運搬であるから、市の処理計画と抵触するものではない。被告は、新規の業者を締め出すために、処理計画に合わないと称しているにすぎない。

理由

一  請求原因1の事実(被告が本件の条件付き許可処分をしたこと)は、当事者間に争いがない。

二  前年度(昭和六二年度)の許可に条件が付いていたか否かについて

《証拠省略》によると、原告は、昭和六二年四月一日、被告から、西脇市内の浄化槽清掃業及び一般廃棄物処理業(浄化槽汚泥収集・運搬)の各許可を受けたこと、この許可には期限を昭和六三年三月三一日までと定められたほかは、何らの条件も付されていなかったことが認められる。証人垣内庸孝は、原告の従業員に許可証(甲第一号証の一、二)を交付した際に、口頭で、県立高校に限ること及び営業所を同市内に設置することを申し渡したと証言するが、右各証拠(甲第一号証の一、二の許可条件の欄には、わざわざ斜線が引いてある。)に照らして、採用することができない。乙第二号証(昭和六二年度西脇市一般廃棄物処理計画)、同第五号証(一般廃棄物処理業等審査会会議録)の記載も、市側で一方的に作成された文書であって、右認定を左右するのものとはいえない。

三  そうすると、被告は、昭和六二年度には原告に無条件の許可を与えていたのに、昭和六三年度には、これに「県立高校及び雇用促進事業団に限る」との条件をつけて許可したものであり、その実質において、前年度の許可をその一部を除いて取り消したものといわなければならない。

四  そこで、本件許可に前記条件が付されたことについて、被告の主張する理由を検討するに、

1  原告の営業実績がないとの主張について

原告代表者の供述によると、原告は、昭和六二年度の許可を受けるに当たり、西脇市の担当者から、既存業者と摩擦を起こすことがあってはいけないので、営業を自粛するようにとの指導を受けたこと、そのため、同年度中は同市内で、二件の浄化槽の保守・点検をしたのみで、清掃以下の営業を見合わせたことが認められる。そうすると、昭和六二年度の営業実績がないのは、市の行政指導に従った結果であって、被告がこれを本件許可に条件を付した(実質的には一部取消しの処分をした)理由として掲げるのは、信義則上、許されないというべきである。

2  緊急事態への対応能力について

原告代表者の供述によると、原告は、西脇市内に営業所もしくは連絡所を置いていないことが認められる。しかしながら、右供述、前掲垣内証言に弁論の全趣旨を総合すると、浄化槽は通常、故障報知装置が作動しても相当の余裕をもって対応することができるように設計されていること、原告は、その事務所を西脇市から車で一時間程度の距離にある姫路市に置いているうえに、兵庫県下の市町で広範囲に営業していることが認められるから、被告が本件処分の理由として原告の緊急事態への対応能力の欠如を掲げるのは失当である。

3  本件の一般廃棄物処理業の許可申請が廃棄物処理法六条一項所定の処理計画に適合しているか否かについて

《証拠省略》によると、西脇市では従前、原告以外の二業者が許可を受けて浄化槽汚泥の収集・運搬に当たり、それで格別の支障がなかったこと、昭和六三年度の浄化槽汚泥の収集・運搬及びその処理計画もこのことを前提として作成されていることが認められる。しかしながら、前記認定のとおり、被告は、原告の前年度の許可申請に対し、無条件でこれを許可したのであるから、特に事情の変更が認められない昭和六三年度の許可申請に対し、同年度の処理計画を所与の前提として、これに適合しないと主張することは、行政としての一貫性を欠き、許されないといわざるをえない。

五  以上検討したところによると、

1  本件の一般廃棄物処理業の許可申請に条件を付した理由として被告が主張するところはいずれも根拠を欠き、前記のとおりこの条件付加が許可の一部取消しの実質をもつことからすると、右条件付加部分は裁量権を逸脱してなしたもので、違法というほかない。

2  被告の主張する浄化槽清掃業の許可申請に条件を付した理由(被告の主張3(四))は、一般廃棄物処理業の許可申請に条件を付したことが適法であることを前提にしているところ、この前提を欠くことは、右に述べたとおりであり、被告はその他の法所定の欠格事由を主張・立証しないから、本件浄化槽清掃業の許可に付された条件部分も違法である。

六  被告は、原告の本件申請が権利の濫用になると主張するけれども、この主張を基礎づける事実を認めるに足りる証拠はない。

七  結論

よって、本訴請求は、いずれも理由があるから認容し、訴訟費用につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林泰民 裁判官 岡部崇明 井上薫)

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